肉の塊
体のいいなり(内澤旬子箸)より
四度の手術で私が得たこと、それは人間は所詮肉の塊であるという感覚だろうか。何度も何度も人前で裸にされて、血や尿を絞り出しては数値を測って判断され、切り刻まれ、自分に巣喰う致死性の悪性腫瘍という小さな細胞を検分されるうち、自分を自分たらしめている特別な何かへのこだわりが薄れてしまった。
人間なんてそんなごたいそうなものではない。仏教の僧侶が言うとおり、口から食物を入れて肛門から出す、糞袋にすぎない。
私のように意志ばかり肥大させて生きてきた人間には、それはちょうど良い体験だったのかもしれない。独立した存在だと思っていた精神も、所詮脳という身体機能の一部であって、身体の物理的影響を逃れることはできない。私はそれをあまりに無視して生きてきたんじゃないだろうか。