生かされてある日々

「世界はエネルギッシュな人間のものである」……エマーソン(1803~1882)米の思想家

金子光晴 詩「反対」

「反対」

僕は少年の頃
学校に反対だった。
僕は、いままた
働くことに反対だ。

俺は第一、
健康とか正義とかが大きらいなのだ。  
健康で正しいほど
人間を無常にするものはない。

むろん、やまと魂は反対だ。
義理人情もへどが出る。
いつの政府にも反対であり、
文壇画壇にも尻をむけている。

何しに生まれてきたと問わるれば、
躊躇なく答えよう。反対しにと。
僕は、東にいる時は、
西にゆきたいと思い、

きものは左前、靴は右左、
袴はうしろ前、馬には尻をむいて乗る。
人の嫌がるものこそ、俺の好物。
とりわけ嫌いは、 
気の揃うということだ。

俺は信じる。   
反対こそ、人生で
唯一立派なことだと。

反対こそ、生きてることだ。
反対こそ、じぶんをつかむことだ。

……金子光晴(1895~1975)詩人