金子光晴 詩「反対」
「反対」
僕は少年の頃
学校に反対だった。
僕は、いままた
働くことに反対だ。
俺は第一、
健康とか正義とかが大きらいなのだ。
健康で正しいほど
人間を無常にするものはない。
むろん、やまと魂は反対だ。
義理人情もへどが出る。
いつの政府にも反対であり、
文壇画壇にも尻をむけている。
何しに生まれてきたと問わるれば、
躊躇なく答えよう。反対しにと。
僕は、東にいる時は、
西にゆきたいと思い、
きものは左前、靴は右左、
袴はうしろ前、馬には尻をむいて乗る。
人の嫌がるものこそ、俺の好物。
とりわけ嫌いは、
気の揃うということだ。
俺は信じる。
反対こそ、人生で
唯一立派なことだと。
反対こそ、生きてることだ。
反対こそ、じぶんをつかむことだ。
……金子光晴(1895~1975)詩人