生かされてある日々

「世界はエネルギッシュな人間のものである」……エマーソン(1803~1882)米の思想家

詩「ありがとう」

エフトゥシェンコ詩集「白い雪が降る」草鹿外吉訳編より
                   「ありがとう」

たとえ自分の涙にでも「ありがとう」をいいたまえ、
あわててふいたりなどしないで。
かりに泣いたって 生まれた方がいいさ、なぜって
生まれないってことは死ぬことだもの。

生きていることさ、ぶちのめされても ひん曲げられても
プラズマの暗闇に 消えてはいけない。
かりに宇宙をかける馬車から
緑色のしっぽの瞬間を 盗みとったとしても。

よろこびに かぶりつけ、赤かぶにかぶりつくみたいに、
包丁つかんで 笑うがいい。
生まれてこれなかったら、それこそおそろしいこと、
たとえ死ぬのが いくらこわくても。

生まれ出たものは それでもう 幸福もの。
人生ってのは トランプのばばみたいなもの。
ぬかれっはなしでいるなんて つらよごしだ、
まあ 十七歳までは キングでいられても。

みざくらの匂いに ゆられあやされ、
なんにでも酔っぱらっちまうんじゃ、
奇跡がおこっても 気がつきっこない、
自分がこの世にあらわれたという奇跡にさえも。

天国で極楽にいきたいというわけでもなし、
いまさらとやかくいって 大地をはずかしめるんじゃない、
なぜって 人生は二度とこやしないし、
それに 一度目の人生なんて ありっこないんだから。

燃えかすでなく 燃えたつ炎を信じたまえ、
雑草の茂みに 身をなげたまえ、
そして あんまり余計なおしゃべりはせずに、
宇宙を背中にしょいこむことだ。

山の中で暴れないなんて 恥ずかしい話。
たとえ精神の廃墟に立ち
盗賊ゾルバみたいに よごれてぼろぼろでも
そのみっともなさを祝って 踊りまくれ。

そして きみがちらりと横目に見た
不吉きわまる黒い猫たちにも ありがとう、
きみがつるりとすべった
水瓜の皮たちにも ありがとう。

それに いちばんはげしい痛みにだって
やはり なにかをあたえてくれる以上 ありがとう、
どんなにひとりぼっちの運命にだって、
それなりの運命があったのだから ありがとう。

 

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ジュール・バスティアン=ルパージュ作「眠るリトルチャップリン」